Words and Feathers

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【短編小説連載】いつかのまほらば『金曜日 午後三時』

五日間のおはなし。小説の時間通りに更新します。

 おふとんの中で猫を抱っこするような暖かさの陽射しが、バスを降りた私を包み込んだ。
 11月の森の中。村に帰るにはもうひとつ先のバス停の方が近いけれど、久しぶりの帰郷をゆっくり味わいたくて、私は歩いて村の入り口に向かうことにした。
 道の両側は明るい黄金色の木々と枯れかけた背の高い草が広がっている。走り去るバスの音が消えてしまうと、後は私の足音だけが響く。
―― ぱしゃん。
 どこかから別の物音が聞こえてきた。ぱしゃん。小さな水音。しばらくじっと耳を澄ませていると、また、ぱしゃん。
 一体、何の音だろう。
 木立ちの奥には、道と並行して流れる小川がある。そこで魚か何かが跳ねた、その音なのかもしれない。
 子供の頃に小さな魚を釣ったり、摘んだ花を流したりして遊んだ場所。なつかしいな、と思いながら私はせせらぎの方へ進んでいった。今も子供たちが遊びに来るのだろう、ひそかに踏み分けられた通り道をくぐり抜け、川べりに立つ。
 少し傾きはじめた太陽が川面に降りそそぎ、あたりをぼうっと輝かせていた。その光の向こう側、ちょうど私と真向かいの川岸に人影があった。逆光でよく見えないけれど、私と同じ年頃の少年のようだった。目が合ったような気がして、私は慌てて会釈をした。相手は少し首を傾げて、こちらをじっと見ている。表情はわからない。
「・・・誰?」
 沈黙の後、彼が訊いた。深く、耳の奥をくすぐるような響きに、背筋がぞくりとした。何も言えずに黙っていると、彼も黙っていた。もしかしたらひとりごとだったのかも知れない。
 何分ぐらい、そうやって向かい合っていたのだろう。唐突に彼は背を向け、向こう岸の草むらの奥へと歩いていった。背の高い草の陰に隠れる前の一瞬、こちらを振り返ったが、何も言わずに行ってしまった。
 あとに残された不可思議な静けさの中で、そのたったふたつの音の響きが、私の耳の中で永遠のこだまのように鳴り続けていた。


『土曜日 午前十時』に続きます。
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