Words and Feathers

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【短編小説連載】いつかのまほらば『土曜日 午前十時』

五日間のおはなし:連載第二回。小説の時間通りに更新します。
第一回はこちらです。

 学校のある街から村までの道のりは、バスを乗り継いで半日かかる。実際の距離以上の遠さを感じるせいで、昨夜は妙にぐったりして早々に眠り込んでしまった。
『・・・誰?』
 目が覚める瞬間、またあの声が聞こえた気がした。驚いてベッドから起き上がると、そこは私の部屋で、もちろん誰もいなかった。朝のひんやりした空気の中で時計の音が響いている。私の心臓の音も。

 冷たい水で顔を洗い、牛乳を温めて飲んでから外に出た。
すっきりと澄んだ青空が、森の木々の上にのっかっている。村の中を突っ切る通りには、全く人影が無かった。すでに朝も遅い時刻となり、村人は用事を済ませて家の中に居るのだろう。街ならみんな、カフェでゆっくり朝食を取りながらおしゃべりをしているところだけれど、この小さな村にはそんな場所はひとつも無いのだ。静けさを求めるなら、うってつけの場所だった。
 私はいつの間にか村を通り過ぎ、またこの小川に来ていた。昨日、知らない少年と出会った場所。腰掛けるのに適当な石を見つけ、ぼんやりと考え事を始める。
 木立ちの開けた場所からのぞく空は、ますます澄んで青いガラスのドームのように見えた。せせらぎの水音に混じって、自分の身体の中を血が巡る音が聞こえるような気がする。
 何気なく視線を横に流すと、そこに彼が立っていた。
「―― !?」
 ぎょっとして立ち上がった私はバランスを失い、転びそうになる。宙をかいた私の右腕を、彼の右手がつかんだ。
「危ないよ」
 痛いくらいに腕をつかんだまま、彼が、またあの耳の奥に響く声で静かに言った。
「・・・ありがとう」
 私はまだ驚いて上手く声を出せず、ようやくそれだけ言った。もっとも彼が不意に現れなければ、転びそうになることもなかったけれど。
「あの・・・腕・・・」
「・・・ああ、ごめん」
 彼が私の右腕を離した。とっさの事とは言え、余りに強くつかまれたので、肘から先が痺れたようになっていた。痛みを悟られないようにそっと左手でかばいながら、彼を見た。
「きみ、誰?」
 また、あの声だ。どうしてこの声が私の中でこれほど響くのだろう。まるで、鼓膜のすぐ後ろに心があるみたいに胸がざわざわする。
「イツカっていいます。私もあの村に住んでたの。今は遠くの街の学校に通ってるけど」
「そう。僕はアキ」
 誰、と質問した割にはそっけなく、自分の名前を告げただけでアキは黙り込み、会話は終わってしまった。さらさらと流れる川の音と木々のざわめきに包み込まれる。ぱしゃん。どこかで何かが跳ねる音がした。
「ねえ、同じくらいの年みたいだけど、会うのは初めてよね。最近引っ越してきたの? 家はどこ?」
「あっち」
 そう言って、アキは向こう岸を指差した。昨日彼が立っていた場所だ。あの先の森の奥に人の住む集落があるのだろうか。川幅は狭いけれど、私は一度も向こう岸へ渡ったことが無かった。
 ふと、襟元に冷たい空気が吹き込んだ。もう彼は、今日はしゃべらないのだろう。そんな気がして、私は家に帰ることにした。
「ねえ、明日は教会に来る? 日曜だから礼拝があるでしょ。もしかしたら会えるかも知れないね」
 立ち去り際、川の流れを黙って眺めているアキに、私は声を掛けた。彼は黙ってうなずいて、また視線を水面に戻した。
 しばらく歩いて振り返ると、草陰に隠れてもう彼の姿は見えなかった。そう言えば彼はどんな顔をしていたのだろう。私は全く思い出せないことに気が付いた。


『日曜日 午前八時』に続きます。
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