Words and Feathers

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【短編小説連載】いつかのまほらば『月曜日 正午』

五日間のおはなし:連載第四回。小説の時間通りに更新します。
リンク:第一回第二回第三回

 はじめは、ちょっとしたピクニックのつもりだった。私はあの小川を渡ってみることにした。
 草むらの踏み分け道をたどり、初めてアキに会った川岸へやってきた。彼がこちら側に来たのだから、どこかに渡れる場所があるはずだ。
 川べりを少し上流に向かって歩いたところに、水面から突き出た岩が飛び石のようになっている場所を見つけた。足を滑らせないように注意しながら、向こう岸へ渡る。また下流へ戻って、彼が消えた森の奥へと進んでいった。
 木立ちはどんどん深くなると考えていたのに、意外にも森は広くなく、すぐにひらけた草原に出ていた。なだらかな丘の向こうに細い道が続いている。この先に、アキの住んでいる集落があるのだろうか。金の粒子を混ぜた水色に輝く明るい空の下、何も無い草原を私はどんどん歩いた。
 途中で錆びた鉄路を越えた。

 どのくらい歩いているのだろう。
 どれだけ歩いても風景は変わらず、ただ空と草原と道ばかり。太陽の傾きだけが時間の経過を知らせていた。誰にも会わず、何の気配も無かった。放牧の牛や羊はおろか、鳥も、草むらを走り抜ける野うさぎも見かけなかった。どうすればよいかわからないまま、私は歩き続けた。
 やがて空の青がくすんでいき、自分自身の影が草原の向こうへ伸びていく。金色だった太陽は暗いオレンジ色に変わり、丘の上に重い腰を下ろそうとしていた。
(帰らなきゃ ―― どこへ?)
(心配するわ ―― 誰が?)
 一体、私はどこにいるのだろう。ここは私の故郷なのだろうか。村に帰ってから、私は誰にも会っていない。アキの他には、誰も。なぜ彼だけがここにいるのだろう。
 引き返すタイミングを失った私は、そのまま足を前に動かし続けた。既に陽は落ち、空から色が消え、代わりに星が瞬きはじめた。余りに闇が深く、わずかな星明りで自分の影が浮かび上がるのが見える。

 唐突に道が途切れ、私は断崖の上に立っていた。しばらく前から耳鳴りのように頭に入り込んでいた音が潮騒だったことを、ようやく理解した。崖下の闇に光る白波が、際限なく押し寄せている。水平線から天頂までを埋め尽くす星の海に圧倒され、私は自分が立っているのか倒れているかすらわからなくなった。
「危ないよ」
 アキが隣に立っていた。私はもう驚かなかった。彼はずっと側にいたのだ。
「ねえ、どうして私はひとりなの?」
「みんな先に行ったんだ。イツカだけ残った」
 アキの答えは昨日と同じだった。でも私にはその意味がわかるような気がしていた。海鳴りの中に、列車の走る音が混じっている。
「どうしてアキはここにいるの?」
 彼は答えるのを少し躊躇い、「頼まれたんだ」とだけ言った。誰に、と訊かなくても答えはわかっていた。優しい面影が脳裏に浮かんで、私は胸をつまらせた。列車の警笛がどこからか響いている。
 ぱしゃん。
 不意に零れ落ちた涙が、足元で音を立てた。
 アキはそっと私の頬をぬぐった。氷のように冷たい指で。
「草原の中に駅がある。線路を西に向かって歩くんだ。明日の日没までにおいで」
 胸の虚ろに響く深い声で彼が話しかけると同時に、私は意識を失っていた。遠くで大きな衝突音が聞こえた。


『火曜日 午後五時』に続きます。
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